
マンガ【亜人】の主人公である永井圭。合理的で冷徹、妹には”クズ”と評され、永井自身も「僕はうわべ以外で人の心配なんてしたことがない」と言い切っています。しかし、自分を拷問した人間ですらリスクを負って助けてしまうこともあります。読者から評価不能と評される永井の人間性について紐解いていきたいと思います。
※若干のネタバレを含みます。本作の重要な部分には触れませんが、気になる方はご注意ください。
永井のクズさ
永井の人間性について判断していくにあたり、10話以降に永井が政府の研究施設につかり、佐藤が救出した際の描写を見ていきます。
救出の際に佐藤が殺した警備員の死体を見て、気になるかと佐藤に問われると永井は「別に」と返します。その後、脱出のため進んだ先では、研究者が3人いました。3人とも抵抗の意思は見せず、手を挙げて降参していましたが、佐藤は2人殺します。それに対し、永井はなんの感情も見せませんでしたが、3人目が覚悟を決めたような表情を見せると、心変わりをして止めます。単純に全員逃がすわけでも、全員どうでもよくて見殺すわけでもない、永井の心情描写の複雑さが出ていると思います。
11話では助けた研究員に対し永井はこう発言しています。
「なんで他人を気遣えるんですか? 人の痛みなんてわかります?? 僕は上辺以外で人の心配なんてしたことない」
しかし、この発言は先ほどの行動と矛盾しているように思えます。わざわざ研究員を助ける必要はありませんでした。このことについては、17話でこのように発言しています。
「それについては僕もずっと考えてた かつ 一つの答えに帰結した 利用価値の有無 彼は亜人の理解者だった それでいて 政府側に属しているというのはポイントが高い」
この発言は永井の本心でしょうか。それについては僕もずっと考えてたという発言から、助けた時には永井自身にも理由が分かっていなかったといえます。そこにあとから合理的な解釈を付け加えたらこのような回答になったのだと思います。
では、永井は善人といっていいのでしょうか?そうとは言い切れない場面も多く見られます。
例えば、12話では、自身を庇って目の前で胸を撃たれた人間に対して「あーあ…」となんとも拍子抜けな反応を示しています。

その直後も「死んじゃあもう助けようがないがないなぁ」と随分冷静です。普通であればもっと激高してもいい場面です。しかし、撃たれた人がまだ息があるのを見ると悪態をつきながらも身を挺して助けています。
このように、永井の性格はクズといえる言動、善人といえる言動どちらもあり矛盾しているように感じます。永井の性格はどのようなものなのでしょうか。
永井の性格
永井の性格について44話で、永井の母はこのように評しています。
圭は合理的なだけで 冷たいというわけじゃないわ
(中略)
圭は自分の置かれた状況で自分にとって大切なものを取捨選択し その中で自分のできることに全力を尽くせる そういう子よ 私はそんな人間を「冷たい」の一言で断罪すべきではないと思うわ
この言葉を基に、これまでの永井の行動を照らし合わせてみると、永井の性格は以下のように言えるのではないでしょうか?
永井は目的を決める際は人間らしい感情を基に判断する(例:病気の妹を救うために医者になる)。その目標を達成するためには、倫理や感情を断ち切って判断することができる(例:医者になるために不要な友達付き合いを辞める)。といった感じでしょうか。
永井の性格の原因
永井は、異常なほど倫理や感情を断ち切って行動することができます。このような性格になったのにはどのような理由があるのでしょうか?考えられるのは永井の父親の影響です。永井の父は優秀な外科医でした。患者にも親身になれる医者で、退院した人から毎年手紙が届くくらいの人でした。ただ、優しすぎたあまりに、ドナーが見つからない腎不全の患者をどうしても救おうと、臓器売買に手を出しました。結果として、仕事と家庭の全てを失ってしまいした。
このことについて永井は、「同じ失敗はしない 僕はバカじゃないから」といっています。永井の合理性の裏には、父の情動性による失敗が教訓となっているのでしょう。
永井の異常性
ここからは、永井の異常性について深堀していきたいと思います。性格についてで、目標を達成するためには、倫理や感情を断ち切って判断することができると言いましたが、実際どれくらい異常なのかについてまとめていきます。
自身の感情を徹底的に無視した動き
永井は自身の感情を断ち切って行動することができます。それが最も顕著に表れているのは、57話での壁のぼりのシーンではないでしょうか。壁を上るために、自身の指を噛みちぎり、死ぬことで再生をして壁に指をめり込ませて登っていきます。これを計5回繰り返しました。

これをやり切るのも正気ではないですが、始める前に痛かったら辞めようといっているあたりが最高にヤバいです。普通できないし、やるとしても覚悟を決めてやるものなのに、それぐらいの気持ちで始めて、やりきってしまうところが永井の異常性として見えると思います。
他にも永井の感情を徹底的に無視した動きというのはいくつもあります。
- 3話 首を切る
- 5話 バイクの運転を死にながら学ぶことを考える
- 7話 自分に拷問まがいのことをする研究員を殺すのを躊躇う
- 17話 崖から躊躇なく飛び降り
- 42話 自分の腕を切り落とす
引用:亜人/桜井画門 講談社
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